« クレイマークレイマー | トップページ | 裁判員制度広報ビデオ »

2008年8月21日 (木)

刑務所は知的障害施設か?

 NHK教育テレビで、知的障害者の犯罪について放送され(「福祉ネットワーク」8/19)、その中で「新受刑者の知能指数」が紹介された。この統計は「犯罪白書」にも載っている。これによれば、新受刑者のうち、IQ69以下の人々が23%、IQ70~79の人々が23%、IQ80~89の人々が25%、IQ90以上の人々が24%、不明が5%、ということであった。通常IQ69以下が知的障害者と言われているが、IQ70代、80代にしてもボーダーと言われる領域で、日常生活や就労面でハンディを負うことが多い。そして、この統計によれば、IQ89以下の人々が、新受刑者の約7割を占めていることになる。

これは驚くべき数字でなかろうか。と同時に、日本の刑事制度はいったい今まで何をやってきたのかと、慨嘆させられる。要するに、本来ならば、福祉によって保護されなければならない人々を刑務所にぶちこんできた、ということである。

この番組でも、こういった人々は、刑期を終えて出所しても行く宛てがなく、ホームレスになるより他なく、その挙句、刑務所に戻るために再び犯行に及んでしまう例が多いと指摘していた。

IQ69以下が23%などと堂々と公表しているが、このような知的障害の範疇に属する人々の刑事責任能力が本当に問えるのだろうか? この点に関して、日本の刑事裁判は、きわめて奇妙なことになっているようだ。例えば、北尾トロ著「裁判長!これで執行猶予はあまくないすか」という裁判傍聴記には、弁護士、検事、裁判官がそろって、被告人の明らかな妄想話におつきあいしている場面が描かれている(「第20幕 悪魔がささやく」)。もちろん弁護士側としては、被告人に刑事責任能力がないことを証明しようとしているわけだが、有罪率99.9%という状況で検察が起訴したということは、本件も恐らく刑事責任が認められ有罪が確定するのであろう。

刑事裁判では、心神喪失が認定されると無罪になるのだが、心神喪失と認定される例は極めて稀であり、全事件数の50万分の1にすぎない。また、心神耗弱が認定されると刑が減刑されるが、これも、年間80名程度であるという。いずれにせよ、先の新受刑者の23%を占めるIQ69以下の人々のほとんどは、心神耗弱にも該当しないということになる(心神喪失の場合、受刑者にはならない)。 

民事の成年後見制度でも、心神喪失や心神耗弱と類似した概念が存在するが(以前は、心神喪失や心神耗弱という言葉が使われていた)、IQ69以下の知的障害者なら十分この制度が利用できるし、もっと軽度の場合でも、保佐や補助の利用が可能である。成年被後見人や被保佐人や被補助人になった場合、いったん結んだ契約を取り消すことができるので、判断力の不十分な人を餌食にした悪質な業者から身を守ることができる。民法と刑法は違うとは言え、あまりにアンバランスではなかろうか。

殺人などの場合を除き、犯罪の大きさはIQに比例すると言っても過言ではない。そのため、こういった判断力の低い人々の犯す犯罪の多くは、万引きとか無銭飲食といった類であろう。また、親に先立たれた知的障害者はホームレス化する場合が多いので、空腹をしのぐため、つい手をだしてしまったケースが多いだろうことも予想される。こういった可哀そうな人々をかたっぱしから刑務所に送り込むのは、再犯率が高いからという刑事政策的意図が働いているためかもしれない。また、犯罪加害者の軽度知的障害者の場合、制度のはざ間にあって、行くべき施設が存在しないということも、番組で紹介されていた。だからといって、保護施設の代わりに、刑務所にぶちこむというのはあまりに乱暴な話ではないか。

また、知的障害やボーダーの人々が、取調べの段階できちんと自分の無実を主張できるかという問題もある。取調官がその気になれば、いとも簡単に事件をでっちあげ、こういう人々を犯人に仕立ててしまうことが可能であろう。現にそういう事件が起こっている。

2004年、吉田清さん(56)が、二つの強盗事件で逮捕・起訴された。吉田さんは宇都宮市に住む重度の知的障害者であったが、刑事上の責任能力がないことは全く考慮に入れられず、それどころか、取調官が吉田さんの手を勝手に動かし、虚偽の自白調書を書かせられてしまったのである。
 その後、真犯人が見つかり、吉田さんの無罪は確定した。そのため吉田さんは、精神的苦痛を受けたとして、国と栃木県に対して国家賠償請求訴訟を起こした。
 2月28日、宇都宮地裁は、国と県に対して100万円の支払いを命じる判決を言いわたした。判決では、「警察官が知的障害者の迎合的特性を利用し、被害者供述に合致した虚偽の自白調書を作成した」ことが認定され、原告の主張がほぼ受け入れられたのだ。

受刑者の中に、IQの低い人が多いと言うことは、他にもこのような冤罪事件が含まれている可能性が否定できないことを意味している。
 さらに、軽度知的障害者ならび判断力の不十分なボーダーの人々は、被害者にもなりやすい。札幌で複数の知的障害者がきわめて劣悪な労働環境の下で20年以上もの間無給で働かされたという事件が今年発覚した(事業主は逃亡してしまった)。また、埼玉県富士見市在住の認知症姉妹が、悪質なリフォーム業者の餌食にされ、数千万円の全く不要な工事をさせられてしまった事件がマスコミでも大きく取り上げられた。私の直接知っているケースでも、判断力の不十分な60歳の男性が、結婚詐欺まがいにあって2億円近くの財産を奪われてしまった。埼玉県富士見市の事件によって、「リフォーム詐欺」という言葉が一躍脚光を浴びたが、それにもかかわらず、この事件では刑事上の詐欺罪は成立せず、一部が返還されただけで、ほとんどのお金は戻ってこなかった。また、私の知っているケースでも、あえて「詐欺まがい」と言ったのは、婚姻届を出せば結婚詐欺は成立しないからである。したがって、この女詐欺師が、何度同じ手口で人を騙しても、けして捕まることはないのだ。

無銭飲食や万引きなどの小さな罪を犯した軽度知的障害者は牢屋に入れられる一方、判断力の不十分な人々をカモにして、何千万、何億円を騙し取った人間に対しては、警察は指一本触れることもできない。これを不公平と言わずして、何を不公平と言えるのだろう。

そして、このブログのテーマとする中小企業と言う名の犯罪組織においては、日夜違法・脱法行為が行われているにもかかわらず、労働基準監督者や警察は、拱手傍観している。知能犯は法律を睨んで犯罪を犯す。これは当たり前のことである。一方、そういう頭の働かない人々は、単純な犯行に走ってしまい、簡単に捕まってしまう。そして、こういった罪で捕まった受刑者が、刑務所の約7割を占めている。

これらの受刑者には本来行くべき施設などに行ってもらい、その空いたところに本当の悪党どもをどんどんぶちこんでほしいと願うのは私だけであろうか……

                                                       

« クレイマークレイマー | トップページ | 裁判員制度広報ビデオ »

経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/538604/23134344

この記事へのトラックバック一覧です: 刑務所は知的障害施設か?:

« クレイマークレイマー | トップページ | 裁判員制度広報ビデオ »