派遣イジメについて
派遣社員に対する「イジメ」は確かに存在する。極端なイジメとまでとはいかないまでも、小ばかにしたような取り扱いを受けた経験は、ほとんどの派遣社員が味わったことがあるであろう。人の出会いは一期一会なのだから、もっと大切にすればよいものをと思うのだが、どうやら我々はそのような対象とは見なされていないらしい。
会社における通常のイジメとは、一定の観察期間を経て、集団の中で低く評価された者に対して加えられるケースが多い。しかし、派遣社員に対するそれは、そもそもの社会的地位の低さに由来しているようである。中には、頭のおかしな派遣先の社員がいて、全く落ち度がないにもかかわらず、ほぼ5分毎に怒鳴り散らされたことがあった。しかも、そいつは私よりずっと年下の人間である。今更長幼の序などという古臭い道徳観念を持ち出すつもりはさらさらないが、あまりに不当な暴言に耐えがたい屈辱を味わわされたものであった。この手のやからは、絶対的に立場の弱い者に対してサディスティックな攻撃を加えることによって快感を得ているとしか思えない。
また、力仕事の場合、腕力は一瞬にして知れてしまうので、非力が発覚した途端、態度を急変されるということはよくある。幸い私は平均的筋力があるようで、このことを理由に攻撃されたことはないが、仲間がやられている場面を目撃したことはある。
これらの積極的な「いじめ」の他にも、消極的ないじめ、すなわち、直接手を下さない陰湿ないじめというのもある。昨年の6月から、民間監視員による駐車違反の取り締まりが始まった結果、駐禁対策という新たな仕事が、派遣業務の中に加えられた。この仕事は、トラックの助手席にただ座って、ドライバーが納品している間監視員に切符を切られないようにするためのものである。したがって、配送助手と異なり、肉体的な作業は何もしないため、ドライバーから嫌がらせを受けやすい。例えば、ドライバーが納品中自分だけトイレを済ませてきて、派遣社員には行かせてもらえないという話をよく聞く。もちろん行きたいと言っても行かせてくれないわけではないと思うが、それがなかなか言いづらい雰囲気は、この仕事をやってみた者でないとわからない。公衆トイレはどこにでもあるわけではなく、しかも配送作業は、秒単位の過密なスケジュールの中で行われているため、自分のためにわざわざトラックを停めてくれと申し出るのには、相当の勇気を必要とする。だから、普通の感覚の持ち主なら、トイレのある納品先に来たときには、ドライバーの方から声をかけてくるのが当然である。それをしないというのは、明らかに嫌がらせであり、事実同じ経験をした者は、みなそのように受け取っていた。
もう一つ引っ越しの仕事で、よく受けるイジメがある。引っ越し作業は先ほども述べたように筋力を必要とするので、非力な者ほど被害に遭いやすい。我々の仕事はあくまで引っ越しの「補助」のはずなのだが、それにもかかわらず、重い荷物が持てないと、容赦なく攻撃されることがある。また、ドライバーによっては、荷物を持って階段を駆け上がる時、「足元を見るな」などと言ってくるとんでもない奴がいる。私は、テレビでお馴染みの某大手引越しセッターの社員から、この言葉を吐かれたことがある。足元が不安だから見るのであって、見なければ間違いなく転んでしまうだろう。もし転倒し、物損なり労災の事故を招いたら、どう責任をとるつもりなのだろうか。「足元を見るな」と要求する社員は他にもいるらしく、これもときどき話題になる。
もちろん、このようなことを会社が率先して指導しているわけもなく、ドライバー個人の性格によるところが大きい。しかし、100パーセント個人の問題であるかというと必ずしもそうではなく、会社の影響力が少なからず働いているものと思われるのである。
S社という中堅の運送会社があるが、そこの社員は押しなべて派遣社員に対してやさしい。私もそこの仕事を何度かやったことがあるが、そのうちの1度は社長自ら現場に赴いていた。しばらく社長であると気づかなかったほど、派遣社員に対しても腰が低い人であり、社長の薫陶を受けるとはこういうことなのかと、その時実感したものだった。恐らく他の社員たちも、社長の姿勢に見習って、派遣社員に対して同じように接していたのであろう。
S社は特殊なケースであり、すべての会社がこのようになってほしいと考えるほど、私は世間知らずではない。しかし、冒頭に挙げたように明らかに常軌を逸した攻撃が派遣社員に対して加えられた場合などには、やはり何らかの規制が必要ではなかろうか。派遣事業者(つまり、派遣社員が登録している会社)にとって派遣先はお客さんであるため全く頼りにはならず、ここに文句を言ってみても始まらない。私も、別件で、あまりに危険な作業であったため、担当者にクレームを述べたことがあるが、その仕事が自分に来なくなっただけであった。
要は、派遣社員の声にきちんと耳を傾けてくれる行政の窓口があればよいということである。それも労働基準監督署のように企業側に立ち、門前払いするところではなく、労働者の側に立ち、親身になって話を聞いてくれるところでなければならない。そして、複数のクレームが寄せられた企業に対しては、何らかの行政指導がなされるべきである。某大手引越しセッターなどには、恐らくこれが効果てき面であろう。朝礼で派遣社員に対して「足元を見るな」などと要求してはならないことを周知徹底させれば、一発で改善されるはずだ。大手は風評を気にするので、コントロールしやすいのだ。また、許認可業種に対しては、営業停止処分で脅しをかけることができるであろうし、許認可でコントロールできない企業に対しても、公表とかいくらでも方法があるはずである。要はやる気次第なのだ。


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